突然ですが、僕はメルセデスAMG GT S(以下、AMG GT)を所有しています。

もしかしたら、『AMG GTって何…?』という方もいるかもしれないので、今回はまずAMG GTというクルマを紹介していきます。
正直こういったクルマであるとは想像もしておらず、購入した後に驚いていることもあります。
「AMG GTってどんなクルマなんだろう?」と思っている方など、最後までお付き合いいただければ幸いです。
AMG GTはどんなクルマ?
メルセデスAMGとは
メルセデスAMGは、ドイツ メルセデスベンツのハイパフォーマンスカーブランドです。
AMGは、元はメルセデスベンツとは別の会社でしたが、メルセデスベンツが買収。その後、ブランド力強化のために、サブブランドとして再編成されました。
AMG GTの概要とスペック
AMG GTは、メルセデスベンツがAMGブランドで販売するスーパーカーです。
AMGブランドの強化のための第1号として、2015年のブランド再編とともに発表されました。
寸法は、4550×1940×1290mmというワイド&ローな寸法が目立ちますが、その寸法以上に特徴的なのは、この異常なまでのロングノーズショートデッキスタイル。

このロングノーズの下には、M178と名付けられた4リッターV8エンジンを搭載しており、その力で後輪を駆動する、フロントエンジンリアドライブ形式(以下、FR)を採用しています。
最高出力は510馬力で、 0-100km/hは3.8秒、最高速度310km/hというスペックを持っています。(ボクが所有するAMG GT Sの場合)
クルマの骨格であるシャシーは、アルミニウム製のスペースフレームで構築されています。(一般的なクルマはモノコックという構造をとっており、AMG GTは少々特殊な構造をしています。)
スペースフレームとは… フレーム部分だけで強度が担保されている方式。市販車に利用するモノコック構造よりも軽量且つ高剛性だが、部品点数が増えるので製造コストが高め。主にレーシングカーなどに採用される。
また、トランスアクスル方式で7速デュアルクラッチトランスミッションを搭載することで、前後の重量バランスが47:53になっています。
トランスアクスル方式とは… 簡単に言うと、トランスミッションと駆動軸が一体化している方式。 本来AMG GTのようなFRの車は、車体の前側に(重量物である)エンジンとトランスミッションが一体になっておいてあり、重量バランスがフロントヘビーになりがち。 しかし、エンジンとトランスミッションを切り離し、トランスミッションをリア側に配置することで、重量バランスがとりやすくなる。 ただコストが高くなるので、市販車ではあまり採用されない。
多くの部分でAMG GT専用品を用いている
上記で説明したシャーシやエンジン、トランスミッションは、車の大部分を構成する部品であり、自動車開発においてはこれをどこまで共用し、コストを下げられるかが重要視されます。
しかしAMG GTでは、これらはすべて専用品であり、車自体に非常にコストがかかっていることが想像されます。(これら以外に、インテリアなどのスイッチ一つをとってみても、専用品が非常に多い)
それ以外にも、アダプティブクルーズコントロールや衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全装備の装着や、インテリアに用いられる表皮素材もレザーやアルカンターラなどが贅沢に使われており、他社の競合車種と比較しても、至れり尽くせりの内容になっています。
ですが、AMG GTの新車価格は1,580万円(販売開始当時のベースグレードの価格)からで、専用品を多用したにもかかわらず金額が抑えられています。
AMG GTを実際に購入してみて感じた事は?
ボクはAMGブランドを”違うイメージ”で認識していた
ボクはAMGブランドのクルマが好きで、いつかは所有してみたいと思っていました。
個人的に、AMGのクルマはじゃじゃ馬な印象が強く、サーキットを最速で走るより、一般道を好み、広くて長い直線をまっすぐかっ飛ばしていくようなイメージを持っていました。
しかし、AMGはBMWのM社などと同様、サーキットを出自にしていることをアピールしています。
そしてAMGは、メルセデスベンツのブランド故に、スパルタンよりラグジュアリーな印象が強くあり、更にはAMG GTというネーミングから、長距離の高速巡行が楽な類の車だと思っていました。
グランドツーリングカーは、自動車が展開する形態のひとつを指す言葉で、一般的にはイタリア語のグランツーリスモ(GT)いう呼び名で親しまれている。大旅行という意味のグランドツーリングを語源とするだけあって、同車種は長距離の走行に高い適性を持つ。
グーネット自動車用語集
全くグランドツーリングカーではないそのセッティングに驚く
実際に納車後、長距離運転や軽いスポーツ走行を行ってみたところ、ボクがAMG GTに持っていた印象とは大きく異なっていることを目の当たりにしました。
前提として、AMG GTは最近のクルマらしく、ドライブモードを選ぶことができ、モードによってクルマの性格を変えることができます。
- コンフォート:快適性と燃費重視のモード。
- スポーツ:スポーティなドライビングが愉しめるモード。
- スポーツプラス:よりダイナミックなドライビングが愉しめるモード。
- レース:サーキット走行に適したモード。(クローズドコースのみ使用推奨)
しかしながら、快適性を重視するコンフォートを選んで乗っていても、容赦のないロードノイズの侵入や、引き締まった足回りから路面の状況を常に伝え続けてきます。
幸いにしてエンジンは低回転を多用する制御になっているため、ピーキーな特性ではありませんが、それでも少し踏み込めば排気量とフレキシブルなツインターボの特性により、鬼のような加速をしていきます。

乗っていて楽か楽じゃないかと聞かれれば、正直楽じゃない。
スポーツやスポーツプラスを選べば、より硬くなるサスペンションや、中高回転を多用するエンジン制御により、よりクルマとしてスパルタンに変化します。
マフラーのバルブ開放や、エンジンマウントの硬質化により騒音や振動が大きくなり、助手席の人と会話することは難しいレベルです。

そう書いていると、何も楽しくないように感じてしまいますが、どのモードでも共通して言えるのは、運転していることは苦ではなく、とても楽しいと感じること。
なぜなら、AMG GTが自分の手足のように動かすことができるからです。
どうしてそう感じるかというと、考え抜かれた重量バランスやセッティングにより、FRのクルマなのにノーズの入りが軽く、かといって接地感もなくならない。
更に、大柄のクルマである事を感じさせないような人馬一体のドライビング感覚が作り上げられているからです。あたかもミッドシップエンジンの車両のような不思議な感覚があります。

楽しいけど、普段使いするクルマではないかなとおもっています。
ボクは過去にポルシェ911を所有していたことがあるのですが、基本的にフロントの接地感があまりなく、あの感覚が少し苦手でした。
「ボクはやっぱりフロントエンジンのクルマのほうが好みかな…」と感じていましたが、AMG GTに乗ったらそのイメージは割と正しかったように感じました。
だからと言って、ポルシェ911が悪いわけではなく、911に合わなかった自分の問題であると認識しています。少なくとも911に対して、当時のボクが役不足だっただけで、またいずれ挑戦したいなと思っています。

FRというレイアウトの安心感が好みです。
総評
AMG GTはオリジナリティにあふれた、完成度の高いクルマだ
AMG GTを単体で見ると、完成度の高いクルマだと認識することができますが、レビュー記事などでは他メーカーのクルマと比較されているのをよく見ます。
記事の性質上しょうがないことだとは思いますが、FRでトランスアクスル、2人乗り専用でサーキット志向のクルマはほかにあまり見当たらないというのが本音です。
ボクが個人的に思うのは、「本来比較対象とは、性質等の似通った部分が多いクルマで行うべきこと」だと認識しており、「価格帯とジャンルが似通っているから比較する」といった行為に意味はないと感じています。
具体例を挙げるとするのならば、AMG GTはジャガーFタイプや、C7コルベット、アストンマーティン ヴァンテージなどと比較すべきだと考え、ポルシェ911やアストンマーティンDB11、フェラーリ ローマなどと比較してもあまり意味はないと感じている。
これはクルマ以外にも言えることだとは思いますが、広く一般に販売する商品の仮想ターゲットはどこにでもいるであろう人になるのに対し、ごく一部のユーザーに販売する商品の仮想ターゲットもまたごく一部にしかいないようなユーザーが想定されるからです。

「ピラミッドの土台の形が異なれば、最終的に出来上がるピラミッドも異なる。」ということです。
そう考えると、AMG GTがそもそも特異なクルマであり、それ故に、メルセデスベンツから販売されているクルマの中では少々異質な存在であることが目立ちます。
それは、過去のAMGとして販売している車両でも、「あくまでメルセデスベンツの車両である」と言っていいような快適性を兼ね備えているのが特徴でした
しかし、AMG GTはその領域から抜け出しており 「AMGブランドをこうしたブランドにしていきたい」という、メルセデスベンツからの強いメッセージを感じることができます。
結果として、AMG GTが持つ強いスポーツ性と運転感覚・セッティングは、他のクルマと比較したくても比較し辛いような、オリジナリティの高いクルマとして完成しています。

唯一欠点があるとするならば、価格設定がネックか
とても高い完成度とオリジナリティを備えるAMG GTですが、唯一欠点を探すとするのならば、その価格。
販売開始当時の新車販売価格は「ベースグレードの1540万円」からですが、日本においてこういった高額な車両は、上位グレードのほうが出荷される台数が多くなるのが現状です。
つまり、実質的なAMG GTの価格は販売開始当初の「GT Sグレードの1840万円」が基準となります。
そうなった場合、ポルシェ911を上回り、フェラーリやランボルギーニより下といった中間的な立ち位置になります。
911はグレードが非常に多く、「ベースグレードにオプションを沢山付けて好みの状態で買う」ことも、「上位グレードにオプションはそこそこで買う」こともできるクルマであり、圧倒的なブランド力も持っています。
また、フェラーリやランボルギーニも、「一目でわかるエキゾチックさ」や、こういったクルマに大切な「非日常性」を有しており、こちらも圧倒的なブランド力を持っている状態です。
つまり、これらの圧倒的キャラクターを持つブランドに挟まれている状態で、どれほどシェアを奪うことができるのか?といったところになっていきます。

まわりの個性が強すぎて、AMG GTは上手く目立つことが難しい状況です。

日本人の購買パターンは、「欧米への憧れが強く、それでいてブランド志向、他者と同一であることを好む」といったパターンが多く、そうなると大半の人には、AMG GTよりポルシェやフェラーリが魅力的に映ります。
また、人気のあるクルマほどリセールバリューが高く安定しているため、選ばれやすくなります。
結果として、AMG GTは性能や装備に対して、比較的値段を抑えて販売されていたにもかかわらず、日本ではあまり販売が振るわず、2021年現在ではベースグレードは廃止、「GT R」「GT C」といった上位グレードのみの販売となっています。
外国の著名な自動車評論家もAMG GTについて、 「ポルシェのような車が欲しいのであれば、ポルシェを作るのが得意なポルシェのクルマを買うべきだ」と言っていたこともあり、 もしかしたら日本だけでなく世界レベルであまり売れていないのかもしれないです。
最後に
クルマとしての完成度はどうか? → スーパースポーツだけあり、性能は一線級。ただし、メルセデスらしいかというと少し難しい。それくらい、メルセデスの中では異端児。
装備は充実しているか? → フルレザー張りのインテリアや、ほぼフル装備の安全装備など、スポーツカーとしては贅沢な装備をしている。しかもオプションではなく、最初から大体装備されているのがGOOD。
価格は適正か? → 絶対的に1,840万円という金額は高額。しかし、競合車より装備が整っており、絶対王者が存在するカテゴリに殴り込んだメルセデスの、強かな値段設定を感じる。
AMG GTは、このクルマにかけるメルセデスベンツの熱量がしっかりと伝わってくるクルマです。
もしかしたら売れていないのでは…と不安になることもありますが、後継となる車両も開発されているとアナウンスされています。
このクルマが独自性を持ち続け、このまま進化し続けていくことを期待していると共に、数十年経った時にAMGのブランド力がより強くなっていることを願います。

AMG GTは本当にいいクルマだと思うんだけど、
現状のブランドイメージのせいで勘違いされるのが勿体ない。
乗ってもらえればすぐ伝わる良さなんだけどな…
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以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。